この物語の良さをどう表したらいいのかと、好きになりすぎて寝かすことしばらく。
言うなれば、滋味。
この目立ちはしないけれど味わいのある装丁のように、
筆力の確かさによる匂い立つような生活の空気や登場人物の確かに生きてる感じ。
地味だけど、深い味わいがあって、栄養のあるスープみたいに身体に残るのです。

舞台は戦後の、焼け野原になった東京の、復興していくその時。
生き残った人間がそれぞれの事情を抱えつつ、浅草の劇場で働き暮らしはじめます。
夢を持って東京にやってきた旅の漫才芸人や、一癖二癖もある復員兵。
空襲で家族をなくした11歳の子供。わけありのショーダンサー。
みんないろいろあって、望む望まないを選ばず戦争では生き残ってしまって、
くよくよしたりしながら、生きています。

清濁ごちゃごちゃの、理不尽も不正義もあるその生活のなかにある、
揺るぎながらも折れないまっとうさがこの物語の魅力。
特に、この物語の時代にすでに古き良き漫才芸人になってしまっている、
心優しき善造の、方言で語られることばのなんと力強いこと。
書きだしたくなる名言が随所にあります。
そう、この物語はとにかく名文名言がたくさん。
漫画の決め台詞みたいに太文字でズバッとでてくるんじゃなくて、その場面のなかではごく自然にある、
心の方位磁針のような言葉を、じっくり味わってみてください。


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2013年1月27日更新
『笑い三年、泣き三月。』 木内昇

受賞作 日本の物語