映画の「レ・ミゼラブル」はもう見ましたでしょうか。
いまだ私の頭のなかには民衆の歌が繰り返し流れて、もう一度見たいDVDが早く発売にならないかと心待ちにしています。サントラを聞いても部分的に記憶を刺激されて、もっとちゃんとそのストーリーの中で歌を、その映像を味わいたくなってしまいます。
なのですが。
映画を見て確かに感動し、以前には舞台も楽しんで、その物語の大筋は知っています。ですが「レ・ミゼラブル」のその物語自体を読んだことはなく、舞台であるフランスのことも、その歴史も良くは知りません。
この本の著者である鹿島茂氏も書いています。「世の中には誰でも題名とあらすじぐらいは知っているが実際に誰も読んだことのない、《世界の名作》というものが存在している。(中略)もしフランス文学についてのアンケートを取ったなら、題名を知っている作品のトップには必ずこの『レ・ミゼラブル』が来るだろうが、読了した作品の項目ではかなり下になるはずである。」
フランス文学の研究者でも読んでいない人が多いのではと続けて語られるその小説は、作家ユゴーの好んだ脱線を多く含んでぐんぐんとストーリーを進むことを楽しむには少々まどろっこしく、投げ出したい気持ちにさせられるものであるようです。
実際にそんな一人であった研究者鹿島茂氏が『レ・ミゼラブル』への認識を改めるきっかけになったのが、版画による挿絵入りの『レ・ミゼラブル』でした。その挿絵はこれまで読み飛ばしたいような脱線に思えていた部分を退屈どころか新鮮な驚きをもたらすものに変え、『レ・ミゼラブル(惨めな人々)』という題名の意味をはじめて理解したような気持ちになったというのです。
そしてこの『「レ・ミゼラブル」百六景』にはそのたくさんの挿絵のなかから木版画230葉が、106シーンに分けて理解を助ける解説とともまとめられています。
この本によって私の知っていた『レ・ミゼラブル』はぐっと具体的なものになり、理解できていなかった歴史や生活、その風俗を部分的にでも知ることができました。今映画をみたら以前は気づけなかった表現の奥にあるものに深くはまりこんで楽しむことができるのか、あるいは構成的に省かれたであろう細部に気づいて物足りなさを感じたりしてしまうのか、試してみたいとすら思います。
もちろん、映画でも舞台でもなんでも、娯楽として基礎知識的なものがなくても楽しめるようにあるべきだと思うのです。でも知ること自体を楽しめて、ついでに自分の感動も豊かにできるのだったら知識を広げてみるのも面白い。フランスにもフランス文学にも素養のない私にはこの『「レ・ミゼラブル」百六景』ですらすべて理解できたとは言い難く、わからないまま読み流したこともあるのですが、気が向けばさらに原作を読んでみるとか歴史を調べてみるとかしても良し、しなくてもこうして一度自分に立ったアンテナが、興味にしたがって自然に知識を拾ってくれもするでしょう。
この本は、映画を見てもうちょっとこの物語世界のことを知りたい!という気持ちにぴったりで、この本自体をさらっと読んで楽しんでもいいし、ここからさらに先へ理解をすすめる第一歩にしてもいい。そんな素敵な教科書です。
2013年3月4日更新
『「レ・ミゼラブル」百六景』 鹿島茂
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こんにちは、鳩です。
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