昔、文章を添削してもらう機会があったときに、「言葉にできない気持ち」を「言葉にできない」と表現してしまったら、お手上げですと自分で宣言しているようなものですよと言われたことがありました。
本当にそう、と思いながら、この本を読んだ感想をうまく文章にまとめることができない。
この本を読んで生まれた気持ちが本当にたくさんあって、心にいっぱいの種をまかれてそれがどう育つのか、どう育てていくのか、じっと自分をみつめている、そんな感じなのです。

この本は、本屋や出版業界に仕事として縁のない人にはあまり興味のないものだと思うのだけれど
「読者」であること以上に本に関わりたいと思う人にとっては、とても大切な本になると思う。
著者である石橋毅史さんという人は、「新文化」という業界紙の編集長を長くつとめた方。
出版業界に関する、深い知識と認識をベースに、これからの「本屋」を探ろうとするルポです。
このカギカッコでくくられた「本屋」という言葉にはおそらくお店としての本屋というもの以上に、「本をあつかう人」という意味が含まれているのだと思います。

石橋さんは出版業界に精通する人で、本を、本屋を、本で商うひとを、とてもたいせつに思う人。
けれど自身は本屋さんだったことはなく、あくまで違う立場から、「本屋」を模索する人。
そのことがこの本をとても深いものにしていると思うし、私にとっても大きな意味を持ちました。

この本を読んで思い出したのが、西村佳哲さんの『自分をいかして生きる』という本の中の「自分の仕事っていったいなんだろう」という文章。
好きを仕事に、なんて言葉はよく聞くけれど、しっくりこない。じゃあなにか。
西村さんの書いていた一つの答えが「自分がお客さんでいられないこと」。
自分がお客さんの立場になって、誰かの仕事を体験する側にいるのが居心地のわるい、ザワザワするなにか。

『「本屋」は死なない』に書かれているのは、まさにそういう仕事をしている人たち。
どうしてそれをするのかと聞いたら、それなりの言葉で理由を返してくれるだろうけれど、きっとそれは微妙に本心とはずれていて、自分が動かずにはいられないザワザワが、心の底にあるような気がする。
そして著者の石橋さん自身も、きっとそうなのだと思うのです。

この本を読んで文章にできなかった気持ちは、いつかちゃんと、誰かと会話で話したい。
まかれた種を、自分なりの伝える言葉に育てたい。
そう思っています。


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2013年2月4日更新
『「本屋」は死なない』 石橋毅史

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