魔法といったら、どんなものをイメージしますか。
この物語の舞台は世界中の魔術師が集まる町マジェイア。
この魔術師とはいわゆる手品師のこと。マジェイアは、魔術師たちが外で働くときは見る人を驚き楽しませるためにまるで超自然な能力がそなわっているようにふるまい、その秘密が外にもれないように仲間たちで集まって暮らしている町です。
その町で開かれる魔術師名匠組合にはいるための選考会に、アダムという男性が訪れるところから物語がはじまります。

アダムは「ただのアダム」と名乗り、使う魔術を「ただの魔法、正直な魔術」といい、町で魔術師のおちこぼれの女の子ジェインを助手にして、選考会に乗り込みます。まるでタネがないように見えるアダムの魔術をマジェイアの魔術師たちは恐れ、その正体を暴き魔術を妨害してやろうと企むのですが・・・。
人間たちの自分たちを脅かすかもしれない理解できないものに対する抵抗を実に皮肉とユーモアたっぷりに書きながらも、最後まで読むと受け入れられたような気持ちになるのがポール・ギャリコの小説らしいところです。ほんものの魔法とつくられた魔術の争いではあるのですが、本来それはぶつかり合うようなものではなく、お互いがあるからこそ在るという肯定があるうえでのあたたかい風刺。

アダムが落ちこぼれだったジェインに「きみの魔法」を教えてくれる場面が、わたしはとても好きです。
芋虫が蛹になるように、種が芽吹くように、ごくごくあたりまえに人の力の及ばない不思議が身の回りにはある。そのことを文章でありながらまるで目の前に映像が浮かび上がるように描いていて、それまで白黒だった景色に鮮やかな色がつくように世界が素晴らしく美しく思えてくる。もともとそこにある、あたりまえの魔法に気付くための、鍵のような物語なのです。


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2013年3月27日更新
『ほんものの魔法使』 ポール・ギャリコ

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