本と出会う瞬間て、ほんとにいつあるかわからないなあと思うのです。
映画化され話題にもなった本…でもそのころはまったく心惹かれず、通り過ぎるだけでした。

それが今になってなんとなく気になって、偶然開いたページに最近買って愛用中の万年筆の名前が出てきて。
少し読むと、主人公の女の子が文房具屋でアルバイトをしていて、この万年筆の書き味は字の太さは、なんてやりとり。それだけでとりあえず買おうと決めました。
この本をはじめて知った頃だったら、おなじ文章を読んでも心惹かれなかったかもしれない。
そもそもなんとなく手にとるということ自体が今だから発生した磁力なのだと思うと、新しく出た本も古くからある本も、惹き寄せられるときには関係ないなあとしみじみ思います。

そうして読んでみたこの本は、予想以上に心に残るものでした。
部屋のクローゼットの奥に残されていた、前の住人のものと思われる日記と手紙。
そしてアパートの自分の部屋を見上げていた男の人との偶然の出会いと、ほのかな恋。
ストーリー自体はとてもシンプルで、物語の行方ははじめから察せられるのですが、それでもぐっと読まされて引きこまれていくのは、主人公が迷いながらも読み始めた日記にのこされた生活や感情があまりに生き生きとしていているから。
主人公の気持ちに大きな影響を与えて、ときには人生の先生みたいに導いてくれる、会ったこともない日記の主。主人公と一緒にどんどん惹かれていき、過去と現在の二人の女性の気持ちがインクが滲むように重なるようなラストまで一気に読んでしまいます。

時が過ぎ書いた人はいなくなっても、そこに残された言葉が物語をつくって心をつないでいく様は、本が好きな人にも、文字が好きな人にも、ペンが好きな人にも紙が好きな人にも、心躍るものなんじゃないかな。

日記に残された文字が万年筆の筆跡であることに気づいて、インクの色を文具雑誌のインクカラーカタログから探そうとする場面もあったりして、万年筆好きなら楽しめる細々とした部分もたくさん。マイ万年筆を持たない人は、自分のお気に入りを探したくなってしまうかもしれませんよ。


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2013年2月28日更新
『クローズド・ノート』 雫井侑介

恋と愛のはなし 日本の物語