食べることが好きだ。食べることが好きな人も、好きだ。

この本を読むたびに、両方の好きが渾然一体として、ああ、いいなと思うのだ。
食べたい。好きだ。憧れる。

この方は本の装丁の雰囲気とか柔らかい語り口から、ほんわりなイメージを受けるけれど、
その文章はじつのところ簡潔で骨太。
そこに含まれる意味や感情と文章がぴったり同じ丈になっているような無駄のなさを感じて、
こんなふうに書けたらと憧れる文章なのだ。

これは食べることについて書かれた本を紹介するガイドブックなのだけれど、
もう、まず、食べることの良さげな雰囲気を楽しむという趣向ではないのだ。
食に関わる人のあり方、食べものが根付く土地の空気や歴史だったりに深く身を投じるような選び方書き方。
紹介されている本をいくつか書きだしてみると、まずはじめに江國香織「やわらかなレタス」に川上弘美「センセイの鞄」、早川茉莉「玉子ふわふわ」森茉莉「貧乏サヴァラン」、なかほどで「狩猟サバイバル」「世界屠畜紀行」「牛を屠る」と畳み掛けてきて、そのあとに続くのは「どぶろくと女 日本女性飲酒考」「コーヒーに憑かれた男たち」などなど…全部で40冊。柔らかそうな見かけのものでも、なにか生々しさやピリリとするものがあるもの、どれも読み応えのありそうなものばかり。
個人的には「銀河鉄道の夜」がセレクトされていることがとても好みだし、「ほしいも百年百話」についての冒頭分なんて読んでてうずうずするくらい好きだ。
心惹かれた部分だけでなくひっかかったところ、つまり違和感を感じたことなんかもさらりと書かれていて、それがまたその本を読んでみたい気持ちを刺激されてしまうのだ。

ああ、もっと咀嚼したいなとくりかえし思わされてしまう。がっつり、しつこく、美味しく、真摯に。


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2013年1月24日更新
『もの食う本』 木村衣有子

ブックガイド 知識と実践 酔う 食べる