この本は医学書を専門にしている出版社の「ケアをひらく」というシリーズの一冊。
なかなか多くの人の目に触れることはないけれど、内容は専門性以上に普遍性を感じるようなノンフィクションが揃うシリーズです。
ケアという言葉からは介護や福祉といったものが浮かぶけれど、そこに留まらない人間についての探求。

この本に書かれているのは、ロボット。
なんでこのシリーズでロボット?とはじめは思うのです。
登場する「む〜」というロボットは、目玉のようなかたちで、幼児のようで、やわらかくよたよたしている。そして言葉をかけるとぷるるんとふるえて、よくわからない言葉をかえしてくれる。
む〜は一体でそこにあるだけでは、まったくただの機械らしいものであるのに、そばにリアクションを受け止める対象を得ることで、表情が生まれる。会話の空白はなにか考えこむように、曖昧なことばもなにか指し示すように変化して感じられる。
ゴミ箱型のロボットはゴミをさがして歩きまわるけれど、ゴミを拾うことの出来る手を持たない。探しているのかなあと察してゴミを放り込んでくれる人がいて、はじめてその仕事を果たすことができる。
このロボットたちはみな他力本願、一人ではなにもできない弱いロボットなのです。

人らしいなにげなさを、会話の非流暢さを追求して「役に立たないロボット」を作り検証していく過程はそれだけで面白く、ロボットと人を分けるなにかに興味がある人には面白い読み物だと思います。
その面白さのうえにさらに、「弱い」「できない」が持っている可能性をひらいていきます。
アシモが二足歩行できるようになったのは、重心を常に足底に維持したまま歩こうとすることをやめ、バランスを崩しながら出した足を地面に受け止められることで歩くようにしたからなのだそう。おなじように私たちが日々やっている行動の多くも、無意識に何かに委ねることで成立しているのでした。
克服するものとしての「弱さ」ではなく、常に不定さを抱える存在である人の「弱さ」というものへの肯定がこの本の根底にはあって、これはケアというテーマにつながるだけでなく、人があたりまえになにげなくしている生活にもつながっているのではないかと思います。

限られた専門分野の人でなく、もっと多くの人の手に届くことを願う本なのです。


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2013年4月8日更新
『弱いロボット』 岡田美智男

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