読む前から少し、身構えていました。
「虐待」をテーマにした物語であるということ。

ニュースで児童虐待のことが報じられたりしたときに心に浮かぶのは、純粋な怒りと一緒に、そこに至るまでに追い詰められた精神への想像。自分のいる世界から地続きで、誰でもそんなふうになりえるかもしれない息苦しさのようなものを感じて苦しくなる。
本来なら「絶対に許せない」ことへ生まれる静かな共感は、正直座りがわるいし、親にもなっていない自分の心の立ち位置がゆらゆらして定まらなくて、物語を読んでいても苦しくなってしまう。

辛いかもしれない、と思いながらもその存在感に惹きつけられて読んだこの本は、想像していたより穏やかな物語でした。
虐待それ自体を事件的にクローズアップしたというよりは、当事者やその周辺にいる人たちの日常。
「たたかれるのはじぶんがわるい子だから」という子供や、自分をとめられない親や、なすすべをもたない教師も、一時的なシェルターにしかなれないともだちのことも、しずかに訥々と語られて、だからこそ目をそらすこともできないまま心に残る。
この物語はそこでおきているすべてのことを否定しない。解決もしない。正義を叫んで握りしめた拳ではなく、抱きしめるために開かれた手のひらのように、ただあるがままをやさしい言葉でえがいて、その先の未来を生きる人の力を信じて照らす。

タイトルの「きみはいい子」という言葉に込められた願いが、この物語のすべてなのだろう。

こどもたちだけではなく、すべてのひとたちへ届くようにと。


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2013年1月27日更新
『きみはいい子』 中脇初枝

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