子どものころから大体の人がお世話になる国語辞典。
どうやって出来上がるのか、考えたことはありますか?
言葉を知り、探し、使う指針になるその辞典も、もちろん人の手によって編纂されるもの。
これは一冊の国語辞典を創りあげるまでの、辞書編集部を舞台にした物語。
驚くほど長い年月、こだわりと情熱をかけて一冊の辞書が生み出されるさまは、もうそれだけで言葉好き本好きにはたまらないドラマです。

その過程だけでも十分面白いのですが、この物語は辞書編集部の数人の視点から描かれていて、そのそれぞれの立場の思いが、私にはぐっときました。
辞書編集部の馬締さん(まじめ、と読む)というのが中心人物なのですが、この人はまるで辞書を作るために生まれてきたというような人物。
先輩に見出されて辞書編集部に異動になるまでは、会社のお荷物に思われているような不器用な人なのですが、辞書づくりに関してはこの人がいなくてはと思うような才を発揮します。
馬締さんの仕事にかける情熱や、拙くも真剣な恋の育て方もとても良いのですが、私の心に残ったのは西岡さんという、別の人物。
西岡さんは馬締さんよりも辞書編集部の先輩で、おちゃらけているけれども社交に優れていて、馬締さんとは別の部分で辞書づくりの大事な部分を担っている人物なのですが、辞書編集部にとって、まるで辞書の神様に選ばれたような馬締さんと自分が違うことを、自分で知っています。
そして辞書編集部を離れざるを得なくなったときに、西岡くんが思ったことがとてもせつない。
ー辞書に名前を刻むのではなくても、どこの部署にいっても辞書編纂のために全力をつくそう。編集部に在籍した痕跡すらなくなったとしても、俺は名よりも実をとろうー
新しいものをつくり、世の中に送り出そうというときには、それを創り上げて名前を残す人以外にもたくさんの人が関わって、スポットライトの当たらない部分でも力を尽くしているひといる。
そんな人たちの気持ちも主役として丁寧に書かれていたことに、ぐっときてしまったのでした。

多分、読む人によって、いろんな部分に惹かれる物語だと思うのです。
言葉が、紙が、本が、辞書が好きな人。
それだけでなく、ものをつくる人、売る人、そして仕事が好きな人にも、きっと。


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2013年2月9日更新
『舟を編む』 三浦しをん

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