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岸本佐知子さんといえば、有名人気な翻訳家さんです。
岸本さんの翻訳する物語はどこか奇妙な面白さがあって、異なる言語を日本語へ紐解いていく言葉のあやつり方だけでなくて、きっと目の付け所が少し変わっているのだろうと感じたりする。岸本さんが翻訳しているのなら読んでみようかなあと思わせてくれる翻訳家なのです。

そんな岸本佐知子さんの著作物のなかで、一番繰り返し読んでいるのが、この本。
翻訳ではなくて、ご本人のエッセイ。翻訳を本業とされている方なので失礼かもしれないけれど、岸本佐知子さんの文章に魅入られるようになったのはこの本を読んでからなのです。この本に続くエッセイ集も出ていてそれもどれも面白いのですが、ファーストインパクトがつよかったせいかこの本がバイブルのようにいつまでも私のいちばんに君臨しています。

ひとつひとつは短いエッセイのなかには、妄想が満ちています。日常的なところから滑り出したはずなのにどうしてここに至ってしまったかというような終着点にたどり着く。眠れない夜にひとり尻取りをはじめたら良く眠れた・・ところまでは良いのだけれど、飽きないためのお題目制を導入したところ、どんどん抽象的なものも増えてきて、競技の厳正を期するために複数の審判団が生まれ、夜に向けて昼間は語彙の増強、体力の温存を…とずんずんずんずんすすんでいく。何度読んでも芋づる式に広がっていく妄想に腹が捩れるような可笑しさを感じるのだけれど、何処か遠くの出来事というよりはすごく肌に近い感覚があって、こんなに繰り返しおもしろくこのエッセイが読めてしまう自分にちょっと不安になったりもしてしまう。逆にみんな実は結構変なこと考えながら生活してるかも、と安心したりもする。

この本は今は白水社のuブックスというシリーズの一冊として出版されていて、基本は海外文学を出しているレーベルです。uブックスというレーベルは面白い本がいろいろ出ているのだけれど、珍しい新書サイズの小説のシリーズでちょっと高かったりすることもあって、置いていない本屋さんも多いのです。さらにそのなかでも珍しいエッセイだったりするので、多分なかなか人に気づかれにくい本。だからこそ、この本が好きという人に出会うと色んな意味で仲良くなれそうな気もしてしまう。間違いなく面白いんだけど、面白いはずなんだけど、面白いよね…?とちょっと笑いの距離感にどきどきする、そんな本です。


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2014年11月16日更新
『気になる部分』 岸本佐知子

エッセイ